君の為に紡ぐ「」-Voice03-


土曜の昼下がり・・・

気が付けば、図書館で赤髪の彼に会ってから今日で3日が経った。

もう一度会ってみたいけれど、そんな勇気は無くて・・・

図書館に行けばもしかしたら会えるかもしれないけれど、この前と昨日と休館だったから

図書館には行っていないし、会って何を話せば良いかも分からない。


こんな気持ちは初めてだ・・・

一目惚れをした。しかも男に・・・


幼馴染のペンギンとシャチにこの事を話したら驚いていたけれど・・・


「・・・とうとうローにも恋心が芽生えたか」

なんてペンギンはニヤニヤしながら言ってくるし、シャチなんかは

「ローさんなら上手くいきますよ!きっと!!」

なぜか目をキラキラさせながら興奮気味に言ってくる始末・・・。


でも・・・なんだかホッとした。

正直、2人に引かれるかも知れないと思っていたから・・・

思い切って話してみて良かった。


でも、もう一度会えるかも分からないし、やっぱりそんな勇気は無い・・・

なんてグダグダしていたらペンギンが「取り敢えず、今から図書館に行こう」

--丁度、何も予定とか無いし

と言って俺の腕を引っ張って歩いて行く。

その後ろからシャチが「俺はバイトがあるんで・・・会えるといいですね!!」と

いい笑顔を残して走り去っていった・・・


「ちょ、おいっ!ペンギン!!まだ行くとはっつ・・・!」


「善は急げって言うだろー、もしかしたら愛しの赤髪の君が居るかもしれないぞー」


--だ、大体何を話せばいいんだよ!

--んなの、会ってから考えればいいじゃん


そんなこんなでギャーギャー騒いでるうちに図書館についてしまった。


「ぉお~涼しい~」


「・・・寒気が」


「気のせいだろ、愛しの赤髪の君はっと」


ペンギン・・・後でシメる


「んな顔すんなよ。いつも俺の事振り回してんだ、これぐらいの報復は許せ」


--ぐっ、なんも言い返せない

・・・けど、なんだかんだ言いつつ何時も、それに今日も俺の為にしてくれてるのは分かっているから感謝だ。


「・・・で、図書館のどこで会ったんだ?」


「窓辺の・・・角の席」


高鳴る胸の鼓動が煩い。

彼が今日も居るとは限らないけれど、そこに居て欲しいと願っている自分に更に鼓動が早まる・・・

一歩--また一歩、あの席に近付く・・・この本棚の角を曲がれば彼と出会った場所に・・・


--あっ


先を歩いていたペンギンが立ち止まって残念そうにこっちを振り返った。


「残念・・・居ないみたいだな」


「そ、っか」


--他の場所探してみるか?

--いや、多分来てないんだろう・・・今日は


多少なりとも勇気を出して図書館まで来てみたものの会えないとなると残念だ。

でも、居ないなら仕方がない。帰ろうと来た道を戻ろうとしたら


「ロー、ちょっとコレ・・・なんか席に置かれてた」


いつの間に取ってきたのかペンギンの手には紙が握られた。


「ん?何ソレ」


「だから、あの席に置かれてたんだよ。チラッと見たけどお前宛だと思うぞ」


--ホレ

そう言われて受け取った紙に目を通す・・・







Dear.夕陽色の頬をした君へ



今日は驚かせてしまったかな・・・

今度また此処で会えたら君のおすすめの本を教えて欲しい


・・・迷惑じゃなければ


それじゃ、また





from.K







「これって・・・」


なんだか読んで少し恥ずかしくなったし、顔がまた熱くなった。

まさか、彼が手紙を残してくれてるとは思わなかった。しかも、夕陽色の頬をした君へって・・・

俺ってあの時そんな風に見られてたのか・・・いや、でもそもそも本当に俺宛なのか・・・


「一番下の方に日付書かれてるし、さっき聞いた話からすると絶対お前宛だろ、ロー」


「ペ、ンギン・・・どうしよう、俺・・・超恥ずかしいけど・・・今めちゃくちゃ幸せかも」


急に身体の力が抜け、俺はその場にへたり込んでしまった。

そんな俺の腕を引っ張って立たせたペンギンが苦笑交じりに「幸せなのは良いけど此処じゃ目立つから」と言い図書館を連れ出された。

その後、ペンギンの提案でペンギンが最近見つけて気になっているカフェに寄って行く事になった。








そして、そのカフェで俺は彼に逢う。








今日は客足が緩やかでゆったりとした時間が流れている・・・とは言ってもゆったりしているのは何時もの事で

「ちょっと、レイさん・・・何処へ行くのかしら」


「いやぁ~天気もいいし、ちょいと散歩に」


--またそんな事言って、店ほっぽり出す気でしょう!?

--良いじゃないかぁ、今日はお客さん少ないしさぁ

--もうっ、レイさんったら!少しはキッドちゃんを見習ってちょうだい!


・・・これもこのカフェ「Crown cafe」では何時もの事

マスターのレイリーさんは紳士的で優しくて良い人だ。

奥さんのシャッキーさんも良い人で俺を可愛がってくれてる。

普段は大抵、レイリーさんの事は放任しているシャッキーさんだけどここの所レイリーさんのサボリ癖が酷く

とうとうシャッキーさんがお説教モードに・・・でも、シャッキーさんはマスターに甘いから長くは続かないんだろうけど・・・

そんな二人のやりとりを見ながら俺はミルを挽く。

ミルを挽く度に香る、豆の香ばしい匂いが好きだ。


--ぁあ、今日も良い香りだ・・・


なんて豆の香りを楽しんでいたら、客の来訪を知らせるベルが鳴った。



--カランッ-カランッッ--



「あら、いらっしゃい。お好きな席へどうぞ・・・キッドちゃ~ん、おしぼりとお冷を2人分お願い出来るかしら?」


シャッキーさんにそう言われ準備をしようと顔を上げると


「ぁ、え・・・えっ」


そこには図書館でこの間逢った青年が居た。

・・・この間は思いっきり逃げられたからなるべく怖がらせ無い様に細心の注意をして笑い掛けた。

すると、何故か彼は顔を赤くし、友人の後ろへ隠れてしまった。やっぱりそんなに怖いのか・・・俺って


「あらあら・・・ふふふ」


シャッキーさんは何が面白いのかこっちを見ながら笑っているし・・・


俺が内心落ち込んでいると、友人の方が話しかけてきた。


「あの、もしかしてこの間コイツに図書館で会ったりしました?」


--コクリ。


頷いてみせると、その友人はニヤニヤしながら後ろに居る彼を振り返った。


「それじゃ、手紙とか残したりしませんでした?」


--コクリ。再び頷く俺。

そして、更に笑みを深くする友人。


--だってさ、ロー


ぁあ、ローって言うのか・・・

なんだか全身が高揚する感覚があった。


「ぁ、と・・・あの、今度・・・おすすめの・・・本持って来ますっ」

--それ、で・・・名前・・・聞いて・・・も


ぁあ・・・なんだろう・・・この可愛いの

自分でも頬が緩むのが分かる。


俺はカウンターから出て青年・・・ローのもとへ行った。

ゆっくりと自分の口元に人差し指を持っていき・・・









『お れ の な ま え キ ッ ド』













これが俺とローの初めての会話だった。