君の為に紡ぐ「」-Voice04-


駅から少し離れた奥まった場所にその店はあった。

テューダー様式の店構えはどこか異国を思わせ、足を踏み入れると心地の良いベルの音と共にコーヒーの香ばしい香りが出迎えてくれた。


--なかなか良い雰囲気の店だろ?一度来てみたかったんだよ

そう言いながら店内に入っていくペンギンの後に続き足を踏み入れると・・・


「ぁ、え・・・えっ」


カウンター向こうに図書館で夕陽に包まれ煌いていた赤色が居た。

一人であたふたしていると彼はこの前、図書館で会った時の様に真紅の瞳をスゥと細め、柔らかい笑みで此方を見ていた。

まさか会えるとは思っていなかった俺は思わずペンギンの後ろに隠れてしまった。多分・・・いや、絶対に顔が赤くなていると思う。


「あらあら・・・ふふふ」


そんな俺を見て笑う絵に描いたように美人な黒髪ボブの女性に益々羞恥心が煽られる・・・。

ペンギンはというと、この状況を楽しんでいるらしく赤髪の彼に話しかけていた。

ニヤニヤしながら振り返るペンギンを後で殴ってやろうかと考えていたら


--それじゃ、手紙とか残したりしませんでした?


笑みを湛えたままゆっくり頷く彼

「だってさ、ロー」



顔が、身体中が熱い・・・何か言わなきゃ、変に思われるし、、何か言わなきゃ・・・何か



「ぁ、と・・・あの、今度・・・おすすめの・・・本持って来ますっ」

--それ、で・・・名前・・・聞いて・・・も


最後らへんは尻すぼみになってしまったけど彼にちゃんと聞き取って貰えただろうか、変に声が裏返ったり可笑しな顔したりしてなかっただろうかとか色々考えていたらカウンターから彼が出てきた。

白いワイシャツ、黒のベストにソムリエエプロン全てが彼の魅力を引き立てていて見惚れていたら、気が付けば俺の目の前に来ていてゆっくりと自身の口元に人差し指を持っていき・・・トントンっと白く長いその指で軽くたたき、









『お れ の な ま え キ ッ ド』









声なき声が彼から発せられた・・・




「・・・っ、あの、名前・・・き・・・っど、さんって言うんです、か?」




戸惑いながらも尋ねてみると、満面の笑みでこたえてくれた。

すると、黒髪ボブの女性と白髪のマスターらしき人が彼、キッドさんの代わりに言葉を続けてくれた。


「ふふ、その子はユースタス・キッドって言うの

私はシャッキーよ、よろしくね。

・・・キッドちゃんはちょっと事情があって声が出せないんだけど、仲良くして貰えると嬉しいわ」


「あぁ、なにしろ初対面の子に筆談や手話じゃなく自分から話しかけるなんて珍しいからなぁ

・・・よっぽど君の事が気にいったんだろう・・・くくっ

あぁ、俺は此処のマスターのレイリーだ。気軽にレイさんと呼んでくれ」


シャッキーさんもレイリーさんも気さくな人ですぐ打ち解けた。

ペンギンも俺もキッドさんの事は最初はちょっと戸惑ったけど、全然気にならなかった。

いや、気にならないくらいキッドさんの人あたりが良いというか、なんて言ったらいいか分からないけど・・・

彼は人を惹き付ける何かがあるんだろうなと思った。


マスター達の話を聞いてた間にキッドさんがカウンターに戻り、何やら作業をしていた。

どうやらコーヒーを煎れているらしい・・・いい匂い・・・

カウンターに隠れて手元は見えないけれど、優しく丁寧な手つきなのは見て取れた。


--コトン


すると、二人分のカップがカウンターに置かれ、キッドさんが俺とペンギンを手招きした。

ペンギンに背中を押されるようにしてカウンターへ行くとカップを差し出された。


--え、いいんですか?


--コクリ。


--あざっすっ、ロー折角だし頂こうぜ


「あの・・ぁ、あり、がとうござい・・ますっ」


カップを受け取り、カップの中を見るとラテアートでベポが描かれていた。


「・・・っつ、ベポォ」


「ん~?ぉおおっ、スゲェ!!良かったじゃんロー」


--あはは、俺のはペンギンだ!


ラテアートに感動してたらキッドさんにメモを渡された。


『ローくんだっけ?

君のカバンにストラップ付いてたから好きなのかなって


ペンギンくんは帽子に書いてたからちょっと遊んでみた』


「へぇ~、キッドさん凄いっすね。ローめっちゃベポ好きなんですよ

あ、改めて・・・俺、ペンギンっていいます。宜しくです。」


『うん、こちらこそ宜しく』


--っす

あっ、ほらローもちゃんと挨拶しとけよ



「っ、ろー、・・・トラファルガー・ローって言い・・ます」


---わしゃわしゃわしゃ

あ、頭・・・頭なでられてる・・・キッドさんにあたま・・・


「・・・ぷっ、くくっ

キッドさん、その辺にしてやって下さい。」


『ごめん、ごめん』


・・・ホント・・・俺の心臓モタナイ


すると


--あっ、キッドさんちょっと・・・


ペンギンがキッドさんを連れて少し離れた席へ移動して何やらヒソヒソと話し始めた・・・何を話してるんだ・・・気になる。


--ってわけでお願いできます?


満面の笑みで頷くキッドさん・・・ペンギンのヤツ何をお願いしたんだ


「ありがとうございますっ」


どうやら話は終わったらしく二人が戻って来た。でもキッドさんはすぐ奥の方へ行ってしまった。


「・・・おい、何を話てたんだ?」


「なーいしょ・・・ぉい、そんな怖い顔すんなよ」


--ふんっ


--まぁまぁ、すぐ分かるからさ








それから20分ほどしてキッドさんが戻って来た。

その手にはパンケーキがあり、マロンホイップとイチジクのキャラメリゼが添えられており、パンケーキとパンケーキの間にはクランベリーのソースがたっぷりかかっている。見るからに美味しそうだ。

ペンギンめ、ちゃっかり作ってもらいやがってなんて思っていたら・・・



--コトン



「・・・え」



そのパンケーキは俺の目の前に置かれた。

どういう事か分からず、ペンギンを見るとしてやったりと言った感じで此方を見ていた。

どうしたらいいのか分からず、おろおろしていたらキッドさんがカウンターから出てきて・・・その手にはチョコペンが握られていて、俺の傍に来るとプレートの縁に何かを書き始めた・・・

彼の手により丁寧に書かれたそれは・・・・・・



「こ・・・れ・・・」



描き終えたキッドさんはにこやかに笑いながら温かい拍手を贈ってくれた。


「ロー誕生日おめでとう!!

夜の誕生会にはちょいフライングだけどな」


サプライズ大成功と言わんばかりの笑顔で言うペンギン。






今年の誕生日はなんて良い誕生日なんだろう

今年の誕生日の事は一生忘れる事はないだろう






恋い焦がれる人に書いてもらった『HAPPY BIRTHDAY』の文字

それはちょっとビターなチョコの味がした