紅で貴方に愛を誓いましょう
季節は移ろい夏から秋へ
身を焦がすような日差しも陰り涼やかな秋風が吹き始めるそんな初秋にこの世に生を享けた彼の名はトラファルガー・ローと言った。
彼は両親の愛を奪われ、全てを壊したいと願ったと同時に敬愛すべき大きな存在と出会い、その存在を奪われた幼き日にその心は復讐心という鎖で閉ざされ、蒼い蒼い海の底へ沈んでしまい二度と温もりを取り戻すことはないだろうと思われた。
紅と出会うまでは・・・
ただ只管に力をつける為に生き、己だけを信じ立ちはだかるモノは薙ぎ払い道を築いてきた彼は今の現状に戸惑っていた。
「・・・おい、聞いてんのか?何で黙ってたんだよ今日が誕生日だって」
ここ数年、誕生日とは無縁と言ってもいいほど気にした事は無かったし寧ろ祝って貰いたいなどと思ても無かった。なのに目の前の紅い男は怒っている。
自分が生まれた日を教えなかった事を・・・
自分が生まれただけで何の価値も無い日だというのに怒っている。
同じ海賊で一船の船長でもある紅い男が何故怒っているか彼にはそれが分からなかった。
分からないからこそ戸惑っていた。
「教えたところでお前にメリットがあるのか?ユースタス屋・・・別に怒る事無いだろ」
何か可笑しな事言ってるかとでも言う様に小首を傾げながら彼は言った。
すると紅は呆れた様に溜息を吐くと彼の・・・ローの海の様に蒼い瞳を覗き込んだ。
「ざけんな・・・俺はお前の生まれた日だからこそ祝いたかったんだよ。キラーでも、ましてやクルーのでもねぇ・・・お前だからってのがわかんねぇか?」
「・・・な、に言って」
「恋人の誕生日ぐらい祝わせろっつてんだよ」
ローは何か胸に温かいモノが浮上してくる感覚を感じ取った。
--ぁあ、この紅はいつだってそうだ
七武海に入る時もそうだった
『何か手助けさせろっつてもお前は拒むだろうし、お前の闘いに水を差す様なマネはしねぇ・・・けど、心配だけはさせろ』
あの時も今と同じように胸に温かいモノが浮上してくる感覚があった。
それは幼い日に蒼い蒼い海の底へ沈んでしまっていた温もりだという事に気付いた瞬間、頬を伝うものがあった。そうだ・・・この紅はいつもこの温もりを思い出させてくれる。
だからこそ惹かれたのかもしれない。そう思うと紅が愛おしく、余計に涙が溢れた。
その涙をそっと紅の指が拭いさり、こう言った。
「ロー・・・手ぇ出せ」
言われるままに手を差し出すとまるで壊れ物を扱うような手つきで手の甲をなぞり、ゆっくりとその真紅の唇に持っていき口づけそのまま唇を薬指に滑らせるとまるで情事を思い出させるかの様に舌を這わせた。
羞恥のあまり目を逸らすと指先に鋭い痛みが走り思わず視線を戻すと薬指から流れる血を丁寧に舐めとっている恋人・・・キッドと目があった。
そのまま視線を逸らせずにいるとその場に似つかわしくないリップ音をさせ銀色の糸を引きながら彼の唇は静かに離れて行った。
そして、唇が去った薬指にはキッドの着けた紅い痕が残っていた。
その痕を眺めていると・・・
「今年は何も用意出来なかったからな・・・指輪の代わりと言っちゃなんだがそれで我慢しろ。来年はちゃんとしたの贈ってやるからそれまで待ってろ」
キッドがつけた痕の意味を理解したローはそっとその痕に口づけ、目には涙を携えたまま今までで一番綺麗な笑顔で告げた。
「・・・これでいい。来年もこの先もお前の色をしたこのリングだけで十分だ」
「じゃあ、この先もお前が生まれた日に同じのを贈ってやる」
ローの頬に手を添えながらキッドもまた微笑んだ。
--なぁキッド
お前が居てくれるから・・・お前の存在があるから俺の心はこうしてちゃんと自分の中に戻ってくる事が出来るんだ。
俺生まれて来て良かったよ・・・お前、キッドと出会えたから・・・なんて事は死ぬまで恥ずかしくて言えないけどな。
言葉には出来ないけど、今日という日とお前がくれた紅いリングにお前への愛を誓うよ。
「ふふふ」
「そんなに気に入ったのか?(ニヤニヤ」
「内緒だ・・・ふふ」
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